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リニューアルオープンした「一風堂 塩原本舗」の 古くて新しい「白丸」「赤丸」の秘密 一風堂 塩原本舗(南区塩原)

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  2020/06/02   ※記事公開時の日付です



2020年5月26日、緊急事態宣言が解除された福岡で、一風堂にとって極めて重要な店舗である「一風堂 塩原本舗」がリニューアルオープンした。どうして塩原本舗が重要かという話は最後に書くとして、まずはこの店の「白丸元味」「赤丸新味」を、さっそく食してみようじゃないか。

香り、香りだ、豚骨ラーメンは香り

いきなりだが、これが塩原本舗の「白丸元味」(780円)だ。

 

白丸本味(780円)。ああ、もうだめだ。自分で撮影した画像を見て、また食べたくなっているのだから世話はない。

 

「スープの量が少し多いかな」と感じるのは、他店では採用されていない一風堂オールドスタイルのどんぶりの形状によるのかもしれない。ぼくはこの、麺が泳ぐようなスープとのバランスが好きだ。デシャップは難しくなるだろうけれど、いやいや、これでいいと思うのだ。

 

さて、どんぶりに顔を近づけて、鼻から大きく息を吸う。おお、豚骨スープのフレッシュな香り。やっほ、創業からの一風堂のスープの骨格がしっかりと存在する。もちろん、今様にアップデートされているのだけれど、なんというか、これは「豚骨ラーメンらしい、豚骨ラーメン」である。新しいけど古い。古いけれど新しい。

 

以下はぼくの想像だが、香りについては、ひとつは「ネギ」が違うことが大きい。これはね、手切りに違いない。塩原店の杯数だからできることだと思うけど、やっぱりネギの刺激的な香りは、スープの香りを引き立てる。あと、ニンニクだ。裏から香りを下支えしている。意外とニンニクが強いのに、縁の下に納めることのできる一風堂のスープの妙よ。

 

「辛もやし」「辛子高菜」「紅しょうが」の「一風堂無料の薬味3兄弟」は……

 

冷蔵庫の中に一人前ずつ格納されていて、お客がとるスタイル。ちなみに胡麻と胡椒も。新型コロナ対策ですね。

 

熱くてしょっぱいのがラーメンだ!

よし、じゃあ、嗅覚の次は、いよいよ味覚でスープを味わう。一口。まずね、熱い。スープが熱い。最近はラーメンについて書かれたものの中に、スープの熱さについての言及が少ないように思うが、いや、とんでもなく重要ですよ、熱さ。ラーメンのスープは熱くなくちゃ。グローバルな一風堂の中でも、たぶん、今日の時点では、「塩原店が世界一熱い」と言い切りたい熱さだ。

 

そして、塩気。単純に塩度が高いわけじゃない。塩度計で測って高けりゃいいって話では当然ない。でもね、しっかりと感じられる塩気。ラーメンはね、しょっぱくなくちゃだめなんです。こういうと馬鹿にされるかもしれないけど、ラーメンのスープはね、しょっぱいからおいしいのっ! 塩気が立つ工夫は、元ダレ(かえし)の調整なのだろうか。舌はチカチカしないのに、塩気がピンとくる。

 

熱くて、しょっぱくて、そしてフレッシュな豚骨の香りが鼻腔を抜ける。これぞ、豚骨ラーメンだ。でもね、そこはそれ一風堂だから、品があるのです。品格がある。不思議だね。荒々しいのに上品なんだ。

 

食券を買うというのもなかなか新鮮だ。

 

現状、ラーメンは赤丸と白丸で、それぞれ玉子入りが選べる。

 

Aセットの価格がどれだけお得かは……

 

単品の値段を見ると、よく理解できる。

 

麺食む悦びとネオ伝統チャーシュー

麺はどうだ。ぼくは一風堂では、絶対に「カタメン」にせず、「ふつう」で注文する。すると最適な状態であげてもらえるから。今日はまさし君(えっ、知らない?)があげてくれたこともあるだろうけど、いやあ、完璧だったな。中心まで火が完全に通っていながら、ブリッとサクッという噛みごたえ。角麺のエッジが心地いい。イメージだけど、小麦の粒と、お隣の小麦の粒の間に熱い湯が横溢している張りきり切った状態。麺を断絶する感覚を前歯と奥歯が喜んでいる。

 

一風堂の麺は、どんな形状のものを食べても、ちょっぴりスマートで「ああ、やっぱり一風堂だな」と思うわけだけど、ふむ、御家芸の細麺は秀逸である。

 

そして厚切りのチャーシューは、間違いなく塩原店のオリジナルだ。いい具合に炙られて、ああ、豚のいい香り。なるほど、こいつも全体の香りに影響していたのか。豚をしっかりと主張するから、スープの印象が違ってくるわけだな。でね、噛み締めると滲み出る、ちょっと強めの醤油系の塩味が昔ながらなのですよ。これも新しくて古い。そうか、これが塩原店の白丸のコンセプトなのか。プログレッシブでプリミティブ。

 

赤丸は発明だと再認識

さて、2杯目の赤丸新味(870円)。ベースのスープと麺は白丸と同じものだ。が、かえしと香油、辛味噌、背脂で、こうまで印象が変わるのがおもしろい。とくに香油だ。複雑な香りなのだが、その中でもフレッシュなオリーブオイルを強く感じた。なんというか、馴染みきっていないからこそのそれ。これがねえ、なんともいい塩梅なのである。

赤丸新味(870円)チャーシューにはしっかりと炙った後がある(白丸は残念ながら裏返しになっていたのだ)。

 

赤丸は「発明」なのだと思う。1986年に生まれた、あのときの赤丸と、今日の赤丸は、もうまったく別物と言っていいくらい変わっている。変わっているけれど、でも赤丸なのである。5歳のあなたと、今のあなたは、まったくの別人だ。しかし、あなたはあなた。そう、赤丸は赤丸なのですよ。構造こそが赤丸とも言えるし、赤丸はつまり魂だとも言える。これは希有なことです。

 

白丸もそうなんだけど、おそらく塩原店のスープは、濃度が他店より高い。これはたぶん、上質のラードが少し多めに回ってますよ。その「どしん」は、ええ、そうです。ラーメンを愛する者にとっては、「これこれ!」ですね。何を言ってるかわかんない? 君、もっとラーメンを食べたまえ。

 

塩原本舗のレーゾンデートル

最後に塩原本舗の何が重要かという話だ。ここは一風堂にとって、初めての「工場併設店」だった。様々なスープをとるテストキッチンの機能があったし、自社製麺もここから始まった。

 

今から25年くらい前、鉄の階段をカツカツと音を立てて上がった2階に「本社事務所」があった。通ったなぁ。「白丸」「赤丸」以前のことで、このネーミングを創業者である河原さんが思いつく瞬間を、ぼくはまさにこの事務所で目撃したのだ(聞き役だったわけですね)。

 

今の一風堂の、その原型は、塩原本舗で生まれたと言っても過言ではない。ここで展開されたあれやこれやも、いつか書いてみたいと思う。まあ、それくらい、個人的に思い入れのある場所なのだ。

 

宮澤賢治の詩が掲げられている。ラーメンを待つ間、何度読んだことか。

 

そこからまた、こんなに素晴らしいラーメンが生まれるということが、うれしくてならない。あくまで想像だけれど、これからの一風堂の新しい商品やサービスは、きっとここから発信されると思う。わくわくしますよね。

 

最後に一風堂フリークのみなさんへ

「創業者、河原成美も厨房に立ち、お客様にラーメンを振る舞わせていただきます(時々)」と書いてある。本当のことらしい。

 

あのね、こう書きましたけど、なんと言っても一風堂ですから、スープも麺もベースは一緒。あなたが好きな一風堂は、どの店舗でもね、ほら、「ああ、一風堂だな」って感じさせてくれるじゃないですか。塩原本舗もそれは同じ。

 

でも、今の塩原本舗のラーメンは今のうちに食べておいたほうがいいと思う。正直に言うと、ぼくはたぶんしばらくはこの店に通う。というのも、「一風堂らしさ」が、この店のラーメンにはあったから。まごうことなき「一風堂」があったから。

元木哲三

ライター

鶏肉屋の三男として生まれたせいで幼い頃から飲食店が近しい存在で、飲めるようになってからは一日も酒を欠かしたことはなく、立飲みから高級店まで、まあ図々しく呑み喰い語る日々。今日も反省なく喰らう、喰らう。

 

■店舗情報

 

店名 一風堂 塩原本舗
ジャンル ラーメン
TEL 092-408-8616
住所 福岡県福岡市南区塩原3-21-4
交通手段 西鉄大橋駅から徒歩10分
営業時間 11:30~15:00、17:30~21:00
定休日 木曜

 

 

 

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