
土曜日の夜、父に呼ばれて西中洲のオーセンティックバー「Bar 是空」へ行ってきた話。 Bar 是空(中央区西中洲)
憧れていた場所
社会人になる前、西中洲は憧れの場所だった。今ほど新しい店はなかったし、まだ道路は石畳になってはいない。あの一角全体に漂う一種の暗さが、あやしく、そして輝いて見えていた。
憧れの場所だということは未だに変わりがない。それほど頻繁に行く機会はないけど、行くとちょっと背伸びしたくなって心が躍る場所。それが私にとっての西中洲だ。
ある土曜日の夜、21時半ごろ。突然、父から着信があった。両親からの電話なんてものはめったにかかってこないから、電話がかかってくると少しドキッとしてしまう。すぐに電話を取ると、飲みの誘いだったので内心ほっとした。
そうは言っても、飲みの誘いなんてのもめずらしい。「今、西中洲のバーにおるんや」と上機嫌な声。言葉には表さないが、「今から来い」ということは十分に伝わった。明日は朝7時から用事があるのだけど、行かないわけはない。早足で、指定された場所に向かう。
西中洲の名店「是空」
向かった先の「Bar 是空」もまた、私にとって憧れの場所だった。重厚感のある外観を前にすると扉を開けるのに緊張するが、これもまたバーの醍醐味。扉を開ける瞬間の高揚感がたまらなくいい。

フルーツカクテルの誘惑
店内はカウンターのほかにテーブル席やソファ席もあって、思っていたよりカジュアルな雰囲気だった。オーセンティックな形式ながら、カウンターの男性客もテーブル席のカップルもリラックスした表情をしている。カウンターの一番奥に座る父を見つけて、それからオーナーの川井田さんにあいさつをした。
父は「グレンモーレンジィ」の水割り。私は和製クラフトジン「油津吟」のジントニックをオーダーする。柚子や日向夏といった柑橘と、山椒やコリアンダーなどのスパイスの香りを楽しむために、ライムやレモンは使わない。上質な香りと味の奥行きが引き出された、爽快感のある一杯だ。

なめらかですっと飲めるジントニック
2杯目はお店のおすすめをいただく。カナダの「EMPRESS」というクラフトジンで、バタフライピーの花から抽出した色がとても鮮やかだ。通常はアルカリ性で、トニックや柑橘系のジュースなどと混ざって酸性になると、淡いピンク色に変わる。女性に人気がある売れ筋ジンなのだそうだ。トニックで割ると、ジュニパーやオレンジのアロマがふくよかにわき立って、華やかな雰囲気になる。

紫がかったピンク色がきれい
マスターが作った練りきりも特別に出していただいた。

紫陽花!
驚きの「モヒート」!
ここで、父は終電があるといって先に席を立った。結局特別な用事はなく、ただ話し相手が欲しかっただけらしい。まだ60代だが強烈なスカウトによって老人会に入会した話、グランドゴルフで80代の女性に負かされる話、マスターとの出会いのきっかけとなった趣味の蕎麦打ちの話など、私にとってはいろいろと刺激的な話ばかりだった。
さて。カウンターに残った私に、マスターからすてきな贈り物をいただいた。隣のお客さんが注文した「ティラミス」をおすそ分けしてくださったのだ。「ティラミス」はマスターオリジナルのスイーツカクテル。物欲しそうに見ていたのがバレたのか!

甘さはひかえめですっきりと飲める
さらに、別のお客さんが注文していたモヒートも気になる。聞くと、「是空」のモヒートは一風変わっていてお店の名物だということで頼んでみることにした。

どーん!
完成したモヒートは、大きな平皿で提供される。グラスの周りにはクラッシュアイスがぎっしりと、ドーナツみたいに丸くくっついている。まさかこんなモヒートがあるとは! 自家栽培のミントは、葉が元気なのが見てわかる。それだけに味も野性的で濃厚だった。

からだに染み渡る昆布茶
シメに冷たい昆布茶が出るのもありがたい。早起きしなきゃいけない明朝の不安は、これですっかりなくなった。
「うちのスタッフはみんなおしゃべりが好きだから、だいたいいつもこんな感じで、肩肘張らない親しみやすい雰囲気なんですよ」とマスター川井田さん。たしかに、オーセンティックなのに和やかな空気が流れていて、スタッフとお客さんとの会話が絶えない。すてきなお店を紹介してくれた父に感謝! 私の外食&お酒好きはまぎれもなく父譲りだと確信した。
※記事の内容は取材時点のものです。
■店舗情報

店名 | Bar 是空(ぜくう) |
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ジャンル | バー |
TEL | 092-725-6307 |
住所 | 福岡県福岡市中央区西中洲5-6 西中洲コーポ 1階 |
交通手段 | 地下鉄天神南駅から徒歩約5分、西鉄福岡(天神)駅から徒歩約10分 |
営業時間 | 19:00~翌3:00 |
定休日 | 不定 |
