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父と叔父と3人で平尾の小料理屋「ほほん」に行くことになったのだが……。 ほほん(中央区平尾)

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  2020/02/09   ※記事公開時の日付です

祖父の法事のあとで

その日は珍しく大雪になった。灰色の空に厚い雲、やみそうにない吹雪。電車のダイヤは乱れ、チェーンなしでは車も走れないような冷たい道。しかし問題は、大学の単位を取るために試験に向かわねばならないということ。そして、それより重要なのは、私たち家族がこんな日に、亡くなった祖父を見送らなければならないということだった。

 

それから十数年。記憶に残る葬儀からはもうずいぶんと時間が経ち、久しぶりの実家での法事だった。少し離れた和食店でみんなで昼食をとったあと、父と叔父が夕方、父が20年来通っているという平尾の小料理屋に飲みに行くというので、私も合流することになった。3人でお酒を飲むなんて初めてだし、めったにない機会だからおもしろくなりそうだと思った。

父が……

1月の最終週の日曜日、18時。指定されたお店、平尾の「ほほん」に到着すると、7、8席のカウンターのいちばん奥に叔父さんが座っていた。ところが、父の姿は見当たらない。お手洗いかと思ってなにも尋ねずに席についたが、少し会話をしたところで、なんと父は昼間のお酒ですっかり酔っ払ってしまい、家で寝ているとわかった。

 

なるほど、そんなにくたくたなら無理して来ることはない。もし酔いつぶれてしまったら、私の力では父の体は到底かつげないから、父が来なかったのは残念な気持ち半分、少し安心した。

 

小料理屋なので「女将さん」と呼びたいところだが、店全体の雰囲気からすると「ママ」と呼ぶほうがしっくりくる。(たしか)アードベックの10年を特別キープしている常連客がいるあたりは落ち着いたスナックのような。それでいて家庭的で居心地がよく、なんとも不思議な雰囲気が流れている。

 

女将は昔、中洲の人形小路にある和食屋を旦那さんと切り盛りしていたそうだが、今はそちらは旦那さんに任せて、娘さんと一緒にこの「ほほん」を営んでいる。正午ごろから仕込みをして、15時から店を開けている。

 

その日のおすすめの大皿料理が5、6品、それから一品料理が(たぶん)20〜30種。この時期はおでんが良さそうだ。すでにカウンターにボトルキープされている「島美人」を水割りでもらい、叔父さんが頼んだ牛テール焼きをつまみながら、おでんの具を何にするか思案した。

たのしい叔父さん

叔父さんは福岡出身だが、神戸に住んでもう長い。食べるのが好きで、陽気で底なしの酒飲みである。電子機器を扱う大手企業に勤めていたが、今はもうリタイアして別の仕事をしているとのことだった。仕事で中国・湖南に頻繁に行くようになってから、辛いものが好きになったと話していた。

 

その証拠に、黒胡椒がたっぷりと効いた牛テールにも、さらに一味をふりかける。その間、ずっといろんなたわいもない話をしてくれる。酒、一味、酒、一味。酒と一味の繰り返し。

 

それらの話を聞いていてわかったのは、叔父さんはよく笑う、とても気持ちのいい大酒飲みということだ。自分が見てきたことや体験したこと、そこで起きた何気ない出来事を、実におもしろおかしく話してくれる。誰かを責めたり、人生や老いを嘆いたりはしないし、物事の見方が冷静で、理知的である。そして、そのほとんどの話に酒が出てくるのだから、こういう人のことを真性の酒飲みと言うのだと思った。

 

アジの刺身、牛テール焼き、マカロニサラダ、おでんなどを頼み、日本酒熱燗2号、島美人キープで2人で10,000円。

 

おでんは大根、じゃがいも、玉子、春菊。牛テール焼きを食べたから、牛すじはやめておく。大根に染みたダシの旨みが、口のなかにやさしく広がっていく。ほくほくのじゃがいもとほどけた玉子の黄身が、平皿の底に溜まった汁を、時間をかけて吸い込んでいく。

 

叔父さんは途中で熱燗を2度頼み、そのままのペースでまた「島美人」に戻ってきた。4合瓶には、まだもう少しお酒が残っている。ボトルはママに言ってキープしてもらったから、今度は父と来れたらなと思った。

 

その数日後、父から連絡がくる。久留米で用事があるから、その帰りに「ほほん」に寄ろうとのことだった。

※記事の内容は取材時点のものです。

安永真由

ライター/ディレクター

ラーメンやうどんなど麺類を愛する。ほかにはカレー/卵料理/純喫茶/洋食/古い店/お酒全般。辛いものを食べるときは汗だくになります。

 

■店舗情報

店名 ほほん
ジャンル 和食
TEL 092-531-1711
住所 福岡県福岡市中央区平尾2-8-13
交通手段 西鉄平尾駅から徒歩約5分
営業時間 15:00~23:00ごろ ※問い合わせが確実です
定休日 不定

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