
絶対に食べてはいけない『四川牛肉麺』の凶暴スープに悶絶 大明担担麺(博多区博多駅)
96年からここ福岡で本場の四川料理を提供する『大明火鍋城』(福岡市早良区百道)。姉妹店の麺業態が『大明担担麺』だ。博多デイトス店で、背徳の「あれ」を食す。
「辛め」は「適度に辛く」ではない
半世紀近く生きてきて、ようやくわかったことがある。生きるうえにおいて大切なことだから、みんなに教えてあげよう。あのね、
四川料理人に「辛めに作って」と言ってはいけない!
決して、決して言ってはいけない。あの人たちの「辛め」は、ぼくたちと基準が違うのだ。どう言ったらいいのかな、「2割増し」みたいなのを想像するじゃないですか。でもね、次元の違うものが出てくるわけですよ。腕相撲しているつもりが、総合格闘技になってた、みたいな。
麻婆豆腐で瀕死になったり、モツ炒めで涙が止まらなかったり、辛いスープ飲みすぎて歩けなくなったり、日本でも中国でも何度も激辛に挑戦し、敗北し、反省した経験を持つぼくだ。もう二度と……と思っていても、繰り返してしまうのが人間なんですね、ラララララ。
最辛メニューのさらにその上
果たして博多駅である。思ったより用事が早く終わって午前10時半。お昼にはちょっと早いが、そうだ、『博多めん街道』ならば開いている店もあるだろう、とエスカレーターを上がる。
ほらやっぱりだ。10時開店の店はけっこうある。あ、『大明担担麺』は11時からね。でもさ、その割には、従業員の誰も準備をしていない。というか、雑談の声の大きさに本場感を覚えるね。あのダラダラ感、日本人ではなかなか出ないもんね。
なんてことを考えながら眺めていたら、視線を感じたのか、振り返った中年の女性従業員と目があう。
「いらっしゃい」
「え? 開いてるんですか」
つい尋ねちゃった。入るつもりはなかったのだが、「どうぞ」って言われると、なんとなく断りづらい。こうなったら、よし辛いものを食べよう、と決心する。

辛い麺の割合が異様に多い。四川風博多ラーメンがどこの名物なのか、しばし考える。
「一番辛いメニューはどれですか」
「辛いはこれ、四川牛肉麺。もっと辛くできるヨ」
このときだ。心の中ではもう一人のぼくが「絶対にダメだ!」と叫んでいたのに、口をついたのは
「じゃあ、その一番辛いのを、さらに辛めで」
だった。禁句の「辛め」を口にしてしまった。
「わかりました。ニューローメン、イーガ。○▼※△☆▲※◎★●!」
「牛肉麺を一つ」の後の中国語が聞き取れなかった。「辛め」だと「加辣(ジャーラー)」とかになるんじゃないか、と思ったが、それとはまったく違う音だったのだ。

激辛好きは辛い調味料が置いてあるとそれだけで安心する。
さてと、ぼく以外に誰もいない店舗で静かに待つ。卓上のこれは自家製の辣油か。あんまし辛くなかったら使ってみよう、などと今になって思えば甘いことを考える。
恐怖! 食べる血の池地獄
待つこと5分。来た。これが四川牛肉麺(950円)の「○▼※△☆▲※◎★●!」バージョンだ。

赤い。どこまでも赤いぜ。
見ての通りである。ふと「凶暴」という言葉が脳裏をよぎる。
しかし、見ているだけでは、何も始まらない。深呼吸してから、おーし、まずはスープだ。
一口すする。いや、これは言葉のあやで、本当にすすったら、100%咳き込んでしまうから、ぼくくらいのベテランになると、「そっと舌の上に載せる」ような感じで、慎重に口に含む。
「あれ、それほどでもないな」
覚悟しているぶん、かなりの辛さであっても、そう感じる。が、本当に辛い食べ物って本性を現すのは、もう少し後のことなんだよねって、思い出したのは15秒後だ。
痛! 痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛、痛!
「あのね、元木くん。辛さって言うのは、味ではなく、実は痛みでね」……知ってんだよ、そんなことはよ。理屈じゃ、痛みはおさまんないんだよぉ。つーか、そもそも脳内説教してくるおまえは誰なんだよ!
いかん、辛さで頭がおかしくなってる。
「こんなときに水を飲むとね、かえって辛味成分が口中に広がってね」……わかってんだよぉ。百も承知だよ。でも、飲まずにいられないんだよ。すっこんでろ、この野郎。
あ、ついでに口も悪くなっている。
涙のラストバトルの勝敗やいかに
で、ここから先は、ごく控えめに言って、戦争である。やるか、やられるかである。やるったって、食べるだけなんだどね。でも、本当に戦いなんだ。
さっそく鼻の頭に出てきた玉の汗をおしぼりでぬぐう。はあ、ちょっと落ち着こう。コホン、麺は平打ちの縮れ麺だ。もちもち感はなく、ブツッと切れる、ちょっと変わった歯ごたえである。

成都の屋台でこんな麺を食べたことがあった。美味しい麺ではないが、おもしろい。
まあ、こういうスープなんで、「麺の小麦の香りが……」などというような分析は不可能である。麺は「休憩」でもあるから、スープとのバランスを考えねばならない。
具を見てみよう。もちろん主役は牛肉である。大きめに切られたシイタケは、スープの味にも支配的とも言っていい影響を与えている。あとはネギとタケノコ、キクラゲの細切り。

牛肉はゴロッと大きくて食べ応えがある。
これらの具を食べると、どうしてもホールの唐辛子や花椒が紛れ込んでくる。もう、よけてなんかいられないから、思い切って噛む。わお、辛い。
それを凶暴スープで胃に流す。痛みで自分の食道の形がわかる。あ、いま胃の上部まで来て、少しずつおりてるぞ、といった感じだ。もちろん、痛い。
汗、鼻水、涙。痛い。耳の中の産毛がそばだつ感じ。痒くなって、ちょっと聞こえづらくもなる。痛い。ぼくはいったい、何をやっているのだ。なんの罰ゲームなんだ、これは。
症状がさらに進むと、文字どおり視野狭窄が起こるのだが、今回はそこまではいかずに食べ進めることができたのは不幸中の幸いである。この調子なら、なんとか完食できそうだ。
そう思ったのが油断につながったのか、おっとくしゃみがとまらねえ(ヘイ・おまち)。鼻の奥というか、目の奥というか、内部が痛い。
ペースを落としながらも、最後は意地で平らげた。ぼくの勝利ではあるが、すでに満身創痍である。そして、もちろん、数時間後には出口のほうも痛くなるわけで……。
それで、まあ、総評は、信じられないかもしれないけど、とても良い料理だと思う。辛いっていうのは、ぼくの場合、ほめ言葉に近い。シイタケが大きいこと以外、個人的には大好きだ。さらに言えば、次に行った時も、体調次第で「辛め」を頼んでしまいそうな自分がいる。
あと、関係ないけど、めん街道で定食出すのは、たぶん反則だと思う。このあたりが火鍋城の強さだよなぁ、とひとりごつ。

この日はチンジャオロース定食だった。麻婆豆腐か手作りワンタンが選べるのはちょっとお得感があるな。
ライター
鶏肉屋の三男として生まれたせいで幼い頃から飲食店が近しい存在で、飲めるようになってからは一日も酒を欠かしたことはなく、立飲みから高級店まで、まあ図々しく呑み喰い語る日々。今日も反省なく喰らう、喰らう。
■店舗情報
店名 | 大明担担麺 博多デイトス店 |
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ジャンル | 麺、激辛、ラーメン、中華料理 |
TEL | 092-624-1005 |
住所 | 福岡市博多区博多駅中央街1-1 博多デイトス 2F 博多めん街道 |
交通手段 | JR博多駅博多口から徒歩約1分 |
営業時間 | 11:00~22:30 |
定休日 | なし |
