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気さくで陽気な博多の鮨、今宵も幕を開ける美食劇場 やま中・本店(中央区薬院)

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  2016/09/07   ※記事公開時の日付です

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鮨屋が好きだ。鮨そのものも好物ではあるが、鮨屋という空間が好きだ。それは「総合芸術としての鮨屋」と言い換えてもいい。だとして、ぼくが博多で一番だと考えるのは「やま中」である。

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やま中は劇場である。建築家・磯崎新氏が設計した建物は、コンクリートウォールのモダンな外観。10メートル近いカウンターは、継ぎ目のない美州檜で仕立てた一枚板で、その上の雲をモチーフにした和の照明が、トロを思わせる朱色の壁をやわらかく照らす。

カウンターの向こうでは職人たちが無駄なのない動きで、つまみや鮨を次々とつくっていく。運が良ければ、この劇場の総支配人、いや、オーケストラのマエストロ、大将の山中啄夫さんに会えるかもしれない。

福岡の鮨文化は「河庄」(福岡市中央区西中洲)がつくりだした、と言っても過言ではない。この老舗の名店についてはいずれ書くとして、大将の山中さんも河庄で修行を積み、独立した一人だ。伝統に裏打ちされた確かな技術で基本を構築して、そこにお客の感動を呼ぶアレンジを施す。この絶妙の塩梅に、思わず「よっ、名人!」と声をかけたくなる。

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で、大将、強面である。でも、大丈夫、気軽に話しかけてほしい。やま中は店づくりも料理も一流でありながら、まるで居酒屋にいるように(もちろん節度は大切だけど)、賑やかに鮨を楽しめるのが魅力なのだから。

もちろん博多にはしっぽりと、静かにという鮨屋も少なくない。でも、華やかで明るい社交的な空間と時間が、ぼくは「博多スタイル」だと思う。だから県外の客人から鮨を所望されたとき、ぼくは必ずやま中を選ぶのである。

緊張せずに好きなものを好きなように

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さあ、となれば、おまかせのコースもいいけど、やっぱり好みの食材を好みの調理法で、そしてその料理にぴったりの酒とともにいただくとしよう。季節によってネタケースの中も、カウンター中央の一品料理の内容もガラリと変わるので、じっくりと眺めて職人と会話をして、楽しく選んでほしい。

IMG_2906ふと気づけば3時間。いやあ、飲んだね、食べたね。贅沢したね。でも、やっぱり握りで締めますか。じゃあ、ぼくは赤身、穴子、煮ハマ、ラストの巻物はヒモキューで。あ、あなたはかんぴょう巻をいきますか。渋いね、どうも。ああ、本当に満足です。楽しかったぁ。やっぱりね、ここはエンターテインメント空間なんです、極上のね。

IMG_4603ま、もちろん、お値段はそれなりにする。でも、それ以上の喜びが必ずある。「でも、ちょっと怖い」という人は、大人気のランチで経験してほしい。「中にぎり」で、なんと破格の2000円。これで“美食劇場”が楽しめるのだから驚きだ。

あと、最後にこれだけは紹介させてほしい。やま中には食材を冷やすための冷蔵庫の他に、実は生ゴミ専用の冷蔵庫がある。閉店後、収集される時まで、臭いを出さないためだ。どこまでも上質を求める大将の志と心意気。ぼくはこの、お客からは決して見えない冷蔵庫に、一流の一流たる所以を見るのである。

往生際が悪いけど、やっぱりもうひとつ。ここはエッセイストの滝悦子さんの「超・行きつけ」である。遭遇したら、もう無条件に“ちやほや”してください。なにかいいことがあるかもしれません。

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元木哲三

ライター

鶏肉屋の三男として生まれたせいで幼い頃から飲食店が近しい存在で、飲めるようになってからは一日も酒を欠かしたことはなく、立飲みから高級店まで、まあ図々しく呑み喰い語る日々。今日も反省なく喰らう、喰らう。

■店舗情報

店名 やま中・本店
ジャンル 寿司、懐石・会席料理、海鮮丼
TEL 092-731-7771
住所 福岡県福岡市中央区渡辺通2-8-8
交通手段 薬院駅から徒歩10分
薬院駅から157m
営業時間 11:30~21:30
定休日 日曜日

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