
たぶん日本一“にゅわい”麺は二日酔いの救世主だ 麺工房なか(中央区大名)
酒神バッカスに魅入られた男、ノリさんと飲むと、翌日は決まって二日酔いである。そして二日酔いの昼に決まって訪れるのが、ここ「麺工房なか」である。
初めて来店したのは15年ほど前になるだろうか。連れて来てくださったのは一風堂の創業者であり、実は無類のうどん好きでもある河原成美さんだった。
「とくにどこがいいってわけじゃないんだけど、いや、もちろんうどんはちゃんと作られてるよ。でも、驚くようなことは何もない。カウンターだけの小さな店をご夫婦ふたりで営んでてさ。1日分の麺を打って、出汁をひいてさ。なんかいいんだよ、なーんかね。愛される飲食店のひとつの形だと思うんだよ」
もう、この解説だけで十分で、ほかに書くことはないんだけど、あえて蛇足を描こう。
やわい。麺がやわい。おそろしくやわい。やわすぎて、「にゅわい」という新しい形容詞を創造したくなるくらいだ。
筑後うどん(筑後は「ちっご」と発音してくださいね)の麺の特徴は「いわゆるコシじゃなくて、ねばりゴシ」などと言うが、いやそんなにねばりもないし、ヒキもない。で、そこが素晴らしい。
細めの平打ち麺が、唇をムニュムニュとやわらかく擦りながら、口のなかに入ってくる。みんな気づいてないと思うけど、これはうどんを使った「赤ちゃんプレイ」なのです。筑後うどんはママの味。
出汁は昆布と節系の、福岡のうどんの基準からみると、比較的上品に仕上げている。なので、ぼくは「えび天」(550円)か「ごぼう天(発音は「ゴボテン」です)」(450円)で、もうひとフレーバーを加えたくなる。粗く削った唐辛子と、いつも新鮮なネギがうれしい。
噛む元気があるならば「味おにぎり」(1個90円)もいいだろう。鶏肉が「よくぞここまで」と言いたくなるくらい小さく刻まれている。あるいは、二日酔いがひどければ、ひたすらにゅわい麺に癒されながら、出汁をジルジルとすすればいい。罪悪感が少しだけ薄まります。
罪悪感といえば、この店で困ることがひとつだけある。奥さんが謝りすぎることだ。お客が多い時間ならば、店に入り、さっとうどんを食べて出て行くまでに20回は奥さんの「すみません」を聞くことになるだろう。
初めてのぶっかけ
それで、ここからは店の話じゃなくて、店「での」話であって、だから全然読まなくてけっこう。もっと言えば、読まないほうがいい。とか書くと、読むでしょ、あなた。
じゃあ、話しますけど、ある夏の日のことである。あまりに暑くて、ぼくは初めて「ぶっかけ」を注文した。「ぶっかけと言えば、讃岐うどん圏のものだろう」と、ずっと無視し続けていたのだけれど、いや、ほんと、たまらなく暑くて、ちょっとした出来心で。
「あら、となると、これ『初めてのぶっかけ』ってことになるぞ。これ、ちょっとなんというか……」などと二日酔いの朦朧した頭で考えていたら、男女二人連れの客が入ってきた。おそらく同じ会社で男性が先輩、女性が後輩なのだろう。共通の知人の話をしながら席に座る。
「いや、もう卓也ったらさ、笑っちゃうよね。あっ、注文どうする?」
「なにがおいしいんですか?」
「うーん、普通にいろいろあるよ」
「竹内さんはいつもなにをたのむんですか」
「あ、俺、ぶっかけ」
「ぶっ…かけ……」
「お、ぶっかけ初めて?」
「はい、ぶっかけは初めてです」
「けっこういいよ、ぶっかけ」
「そうなんだ。じゃあ、ぶっかけで」
というわけで、二人の会話、お楽しみいただけましたでしょうか。
結果から言うと、麺は冷やすことで締まるんだけど、元が元だけにそれほどでもなく、にゅわさを楽しむためには、やはり温かい出汁でいただくのがいい。以来、「そーゆーこと」にはどっちかと言えば保守的なぼくは「ぶっかけ」を遠慮している。
ライター
鶏肉屋の三男として生まれたせいで幼い頃から飲食店が近しい存在で、飲めるようになってからは一日も酒を欠かしたことはなく、立飲みから高級店まで、まあ図々しく呑み喰い語る日々。今日も反省なく喰らう、喰らう。
■店舗情報
店名 | 麺工房なか |
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ジャンル | うどん |
TEL | 092-714-0210 |
住所 | 福岡県福岡市中央区大名2-11-10 1F |
交通手段 | 赤坂駅より徒歩2分 赤坂駅から82m |
営業時間 | 11:00~15:00 ランチ営業 |
定休日 | 日曜・祝日 |
